瀬戸内かみじまトリップ

海苔を訪ねる離島旅「海苔を育て続ける島」弓削島
Island trip to visit Nori Seaweed / "The continuing production of Nori" Yuge island

海苔を訪ねる離島旅

おすそわけに生海苔

瀬戸内海が冬独得の深い青に染まる頃、弓削島にその年初めての海苔「新海苔」が採れる季節がやってくる。
街なかでも目にする焼き海苔や味つけ海苔が店先に並ぶ一足先に、弓削島で親しい人たちの手から手へひそやかにおすそわけされるのが、加工される前の「生海苔」だ。
酢の物にしたり、天ぷらにしたり、お味噌汁の具にしたり。美味しい生海苔料理は色々あるけれど、島でなじみがあるのは佃煮かもしれない。
調味料を入れてある程度火を通したら鍋ごとストーブの上に置いて、焦げないように長い時間ゆっくりとかき混ぜて仕上げるのだと、山あいの集落に暮らす人に教わったことがある。
海苔の産地・弓削島だからこその豊かな日常だと思う。
季節の中に海苔がある、そんな弓削島の海苔養殖の現場を追った。

10月、弓削島の風物詩

10月半ば、海岸端にある海苔養殖場にお邪魔した。
もしその頃弓削島を訪れたとしたら、海沿いに続く県道から、海辺に建てられた直径2.5メートルほどの大きな水車を見ることが出来るかも知れない。
それが海苔の「種付け」を行う水車だ。
その水車がゆったりと回る姿を見て、ああ今年も海苔の季節が始まったと感じる島の人たちも少なくない。つまりそれは数か月に及ぶ海苔養殖の始まりの光景であり、そしてそのまま、弓削島の風物詩でもあるのだ。

 

カキ殻の中の種

海苔の種は、岡山、九州各地から届けられるカキ殻に植え付けられている。
そのカキ殻を水槽へ入れて種から胞子を放出させ、おなじく水槽に浸しておいた網に付着させて水車で巻き取っていく。この一連の工程を「種付け」と呼ぶ。
胞子を放出させるため水槽の水温は23度以下に。もちろん光の量も調整する。
「夜のうちは水槽にシートをかぶせておいて、朝の9時頃から網にまんべんなく胞子がつくようにちょっとずつ開ける」と水槽のそばにいた漁師さんがていねいに教えてくれた。
ちなみにこの海苔の胞子の大きさはわずか10ミクロン(1mmの1/100)程度。
肉眼で見ることのできない小さな胞子が網にきちんと付着しているかどうかは、顕微鏡で実に細やかにチェックされる。
まずは胞子の数。顕微鏡の視野内にある胞子をひとつひとつカウントし、50~60個ほどあるかどうかを見る。並行して胞子の付き具合も確認する。たとえば網の表面についているものは滑落(※網から落ちること)する場合もあるから「数に入れない」そうだ。
こうして網目に必要十分な胞子が付いたと見定めたところで、ようやく水車を回し、網を巻き取ることが出来る。

水槽に網を広げている時間は4~6時間程度、胞子の状態次第では翌日に持ち越すこともあると言う。人の都合や思いでは縮めることはできない。胞子を待つのだ。
そしてその時が来ると漁師たちは無言のうちに速やかにいくつかの組に分かれ、水車を動かし始めた。胞子を取りこぼさないように回す速度も調整する。
水を滴らせながら巻かれる網の色は鮮やかな紫色だ。見ると足元の長靴も同じ色に染まっている。管理のためシーズンごとに自分たちで染め上げるそうで、顕微鏡でのチェックが滞りなく行えるよう、色は胞子が見やすいものから選ぶと言う。

種付けの段階で胞子がきちんと網についていなければ、十分な収穫をのぞむことはもちろんできない。種つけはその年の収穫を左右する重要な工程なのだ。
顕微鏡で見た胞子はオレンジ色に光って見えた。このきらめきひとつひとつが今年の収穫へとつながる、とても大切な宝物だ。

 

愛媛県随一の海苔産地、弓削島

弓削島で海苔の養殖が始められたのは昭和40年代。海苔養殖産業全体の高齢化が進む中、ピーク時の1/4ほどに減ったとはいえ、後継者のUターン等もあり今も4軒が養殖業を続け、愛媛県内47,495,200枚のうち37,591,200枚を生産と(平成30年度年間生産量/愛媛県漁協本所発表)、県下随一の生産を誇る。
「弓削島の海苔のことを伝えてもらえるのなら」と、忙しい海苔養殖の時期に、数か月におよぶ取材を調整、同行してくださったのが、その4軒を取りまとめる弓削漁協に勤務する北浜大輔さん(46)。海苔養殖に携わり始め今年で27年になる。
25年ほど前は11月の半ばから3月の終わり頃まで採取/加工されていた海苔だが、海水温の上昇など海洋環境や気候の変動などで、近年では12月から2月、年によっては1月頃までと大幅に短縮されているそうだ。
「ちょうどいい気温、ちょうどよい雨がないと海苔は育たんのよね。畑と一緒で、手をかけてやってあとは天候に任せるのが海苔」、北浜さんはそう海苔づくりを語る。

 

百貫島沖の浮上いかだ

種付けをした海苔の網は、いったん冷凍庫で保管する。
そして海水温が低く安定するのを待って浮上いかだにその網を張り、海上の養殖場でほどよく伸びるまで育てる。この工程を「育苗」と呼ぶ。
普段は海水に浸かっている海苔の網だが、よく晴れた日には、その網を海の上へと張り出す「干し出し」が行われる。育苗の途中で海苔に付着してしまう「どろめ」と呼ばれる汚れや細菌、植物プランクトンを取り除き、病気を防いで、美しく美味しい海苔に育てあげるためだ。
「よかったら見てみる?」と、北浜さんが現場へ連れて行ってくれた。

見学は、強風で養殖作業が休業になったために一度中止になったのち、無事実施された。
弓削漁協前の桟橋から船を走らせ約15分。弓削島の海苔養殖場は、百貫島沖に4軒の養殖業者合同で設置されていた。
11月から2月頃の間に「弓削島一周道路」をサイクリングすれば、島の北側にある大谷集落へと抜ける途中で、海上に設置されたその養殖場を眺め下ろすことができるはずだ。
海上には一区画150メートル×200メートルの養殖場が、4軒分広々と並べられている。その間を伝馬船や漁船が浮かび、それらに乗った人たちが、波に揺られながら網を手繰り寄せ作業している。その広大さに驚いて思わず見入っていると、北浜さんが「多い時、25年くらい前はこの数倍あったんよ」と教えてくれた。
ちなみに弓削島の海苔養殖で使われる伝馬船は「サンマ」と呼ばれるオリジナルの船だ。船首でも船尾でも作業しやすいよう、いわゆる舟形ではなく長方形になっている。今は機械化されているゴミを取り除く作業を、かつて人の手で行っていた頃の名残だそうで、「僕らが学生の頃はゴミ取りのアルバイトもあったんよ」と北浜さんは言った。
現在、弓削島の松原海岸では、夏にこの伝馬船を使った「サンマレース」が行われる。参加するのは島内外の子供たち。チームを組んでサンマに乗り込み速さを競うのだ。

日々育つ海苔の生育は、この干し出しの時に目視や顕微鏡でチェックする。
そして芽が2センチほどまで伸びたところで網を陸地へ回収。水分量を調節して海苔の枯死を防ぐため「海苔スリップ」と呼ばれるカキ殻が主原料の粉をまぶした後、ふたたび冷凍庫で保管する。
「冷凍と言うストレスを与えることで、海苔はより強くなるんよね」、北浜さんが教えてくれた。自然に添いながらも手をかけて育てられる様に触れ、北浜さんから聞いた「海苔養殖は畑と同じ」と言う言葉が鮮明に思い出された。
冷凍後、再び海上に張られた海苔は、月の満ち欠け、すなわち干潮のリズムに合わせ、例年11月の終わりごろから2月の終わり頃まで15日周期で摘み取られ、海苔工場で加工される。

 

弓削小学校、海苔工場の見学

弓削島では毎年、島で唯一の小学校「弓削小学校」の3年生が海苔工場を訪問する。
強風で海苔の摘み取りが出来ず延期になったのちようやく実施された今年の見学には、11人の子どもたちが参加した。
海上で摘み取られた生海苔はタンクの中に入れられ、ミンチ状に刻まれる。それをさらに水と混ぜ、定型の21センチ×19センチの四角形にしてから機械で乾かす。
そうして出来る海苔が「板海苔」だ。
ちなみに海苔養殖業者が弓削漁協へ出荷するのがこの板海苔だ。これを焼いたものが「焼き海苔」、醤油やみりんなどの調味料をつけたものが「味つけ海苔」で、それぞれのメーカーが板海苔に加工を施す。

 

お手製の焼き海苔

工場見学の中で子どもたちに毎年変わらず人気なのが海苔の「試食」。板海苔と、その場で焼いて作った焼き海苔の食べ比べをする。
まずは出来たばかりの黒光りする板海苔を食べてみる。その後で別の板海苔をストーブの上であぶって食べる。
あぶっていた海苔を光にかざしてみて綺麗な緑色に変わっていたら、ほどよく焼きあがったしるしだと北浜さんに教わりながら、子どもたちは楽しそうに、板海苔とお手製の焼き海苔の食べ比べを続けた。
熱心に海苔をあぶって、味わうように食べていた子に味をたずねた。
「板海苔はシャキシャキ、焼き海苔は…、食べてると、なんかフワフワになる」。
繊細な表現にはっとした。普段から自分たちの島で育まれた海苔を食べている、しっかりとした味覚が下地にあるから生まれる言葉だと思った。

 

海苔を食べる文化を

見学が終わると子供たちは、海上に設置されている海苔養殖場を見るため、工場から車で弓削島一周道路を登り、大谷集落へと向かった。
瀬戸内海の日差しを浴びてきらめく海上に、網が張られた浮上いかだが影のように並ぶ姿は、幾度見ても美しい。
子どもたちと一緒に海を眺めていると、ふと、「国内で必要とされている海苔の枚数は約75億枚、実際に生産されているのは平成28年度で約65億枚。海苔不足はどんどん進んでいる」と北浜さんが教えてくれたことを思い出した。

高齢化や後継者不足、自然環境の変化、それらに伴う生産量の低下。海苔養殖を取り巻く状況は到底楽観視出来るものとは言えない。
そんな中、今年も弓削島では海苔養殖が続けられる。今年の気温はどうだろう、何月まで海苔が出来るだろう、そんな思いを抱えながら、日々海苔と自然に向き合う仕事は続く。
黒々と光り、しっかり厚手の弓削島の海苔は、海苔巻きやおむすびにぴったりだ。ぐずぐずと溶けてしまうことなく、米や具の美味しさを引き立て保ってくれる。
「海苔を食べる文化が残って欲しい」、取材中、北浜さんがそんな思いを口にした。
あなたにも島で育まれた海苔を食べてみて欲しい。そしていつか、海辺に建つ水車や海上に広がる養殖場を、ゆっくり眺めてみて欲しい。

《弓削海苔が購入できる主なお店》

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