瀬戸内かみじまトリップ

レモンを訪ねる離島旅 「青いレモンの島」 岩城島
Island trip to visit lemon / "Island of Blue Lemon" IWAGI

レモンを訪ねる離島旅

レモンは、ふるさと岩城島の味

愛媛県越智郡上島町。離島が集まってできたこの町の西側に浮かぶのが岩城いわぎ島だ。
周囲約13.8㎞、人口2022人(2020年3月29日現在)。決して大きくはないこの岩城島は全国の産地に先駆け、1980年代からノーワックス・防腐剤不使用の国産レモンを出荷してきた。
瀬戸内の離島・岩城島からさまざまな街へ。
芳醇な香りとゆたかな果汁を楽しみに待つ人たちのもとへ、今年もレモンは送られていく。
そんな岩城島には、山麓に沿うように耕された段々畑やビニルハウスにはもちろん、ウォーキングやサイクリングを楽しむことができる「レモンの散歩道/西部(にしべ)地区」など、島のあちらこちらにレモンの木が植えられている。
その姿は島で唯一の小学校「岩城小学校」にも見られ、例年11月頃に始まり5月頃まで続くレモンのシーズンには、瀬戸内特有のやわらかい日差しを浴びながら灯るように実る果実が校庭を彩る。
小学校に通う子どもたちが食べる毎日の給食には、たとえばひじきのレモン酢や岩城島産特産のブランド豚「レモンポーク」を使ったカレーやハンバーグなど、レモンを使った、レモンにまつわるメニューが日々並ぶ。
島の子どもたちにとってレモンは、とても親しい、ふるさとの食材と言えるかも知れない。
レモンを育みレモンに育まれる。そんな岩城島を巡るちいさな取材旅行に出掛けた。

レモンを買う人から、育む人へ

まずは岩城島でレモンを育てる古川泰弘さん(52)のもとをたずねた。
古川さんは2003年、まだ「Iターン」と言う言葉もあまり一般的でなかった頃、京都から岩城島へ移住した。
元々サラリーマンで「土に触ったこともなかった」古川さん。ただ食には興味があり、偶然にも岩城島のレモンを取り寄せ購入していた。
毎日渋滞に巻き込まれながら出勤する都会暮らしに疑問を抱き移住先を探す中、立ち寄ったのがその岩城島だった。
「農業は人生。農業を始めてから自分磨きが始まった」と、古川さんは言う。
現在はブルーレモンファーム農園農主として就農を希望する移住者の受け入れも行っている古川さん。みんなで集って写真を撮影する時には、自分が中心ではなく端に立った。そんなささいな素振りにも若者を激励する姿がにじみ、その笑顔は力強く、優しい。

 

レモンを、ひとつひとつていねいに拭く

取材の途中で、古川さんが「会っていってやって!」と手招きをして案内してくれたのが出荷の準備をする作業所だった。お邪魔しますと入らせていただくと、果実のさわやかな香りに満ちた部屋の中、週に数回来ると言う20代の娘さんとそのお母さんが、キズや汚れをチェックしながらレモンをひとつずつていねいに拭いていた。
レモンと言えば黄色、と言うイメージはやはり強いが、実り始めたばかりの頃は緑色、つまり、青い色をしている。国産レモンが普及して久しい昨今、消費者は「品質や安全性はもちろん見た目の美しさも求めるようになった」と奥さんの由希子さん。
「特にシーズン初めの青いものは、レモン同士がとんと軽くぶつかっただけで、「ヤケ」と呼ばれるうす茶色の跡がついて、そこから傷んでしまうことも多いんです」
だから青いレモンの出荷は特別ていねいに行う必要がある。
作業をしていたお母さんは、「土や植物に触れるのがいいのか、レモンの仕事を始めてから娘のこころが落ち着いたみたい」と静かに教えてくれた。

レモンの苗木を植えた人

レモンの実が熟すのを待ち、約2か月後、再び岩城島を訪れた。
脇義富さん(72)のレモン畑へうかがう。脇さんのビニルハウスの中は、気をつけないと頭をぶつけてしまいそうなくらいレモンが鈴なりになっていた。
視界が檸檬色に染まる。
沢山あるんですねきれいですねと思わず幾度も口にしてしまうと、「そう、これでもだいぶ採ったけどね。次々実る」と脇さんはさわやかに笑った。
香川県出身の脇さんが岩城島にやって来たのは1971年。大学院を修了した翌年、愛媛県立果樹試験場岩城分場に赴任したのがきっかけだった。
今でこそ全国各地へとレモンを出荷している岩城島だが、脇さんが試験場に赴任した頃は安価な輸入レモンに押されて国産レモンの生産量は大幅に減少、岩城島のレモン作りはほぼ途絶え、島の中でレモンの木を見ることはほとんど無くなっていたそうだ。
しかしそんなレモンに脇さんは「普通のかんきつとは違い、春夏秋と花を咲かせ実を採ることが出来る」と注目。「日本でちゃんと育つかどうかも分からなかった」と言うレモンの苗木を手に入れ、より島の気候に適した品種・アレンユーレカを選抜、育て始めた。

 

青いレモンの誕生

「海外からやってくるレモンは長い航海の途中で追熟して黄色くなる。当時、黄色になる前のレモンが緑色とはほとんどの人が知らなかったし、多分見たこともなかったですよ」、脇さんはそんなふうに話す。店先にあふれているのは黄色い輸入レモン。だからこそ島から送り出すことのできる、緑=青いレモンを「おもしろい」と脇さんは思ったそうだ。
青いレモンを売り出すため、脇さんは島の人たちとともに奔走する。栽培の研究を重ね、苗木を農家へ広め、販売へと各地に出向いた。
岩城村役場(当時/市町村合併前)の協力も得たことでビニルハウスが農家に貸与され、地元の人たちにもレモンに親しんでもらうために家庭にレモンの苗木を植えるマイレモン運動が始まる。その流れの中で、岩城小学校にもあのレモンの苗木が植えられた。
実ったばかりの青いレモンの香りを嗅いだことがあるだろうか。黄色いレモンとはまた違う清純さ、かろやかさは、その時だけしか楽しむことのできない特別な香りだ。
しかも島のレモンは輸送に時間がかかる輸入レモンとは違い、ワックスや防腐剤を使わずとも各地へ届けることができる。岩城島のレモンは格別な風味、安全な品質を実現した国産レモンの、言わばさきがけとなった。
「農業でやっていくにはオンリーワンかナンバーワンでなければ」。脇さんの言葉だ。脇さん、そしてレモン普及に取り組む人たちは、1982年岩城島のキャッチフレーズ『青いレモンの島』を考案、1984年には商標登録を申請し、認可された。
脇さんは定年後の今もレモンなどのかんきつを育て続けている。
一日の仕事を終えて帰る途中、西部地区海岸の夕日を写真に撮ると教えてくれた脇さん。その色合いは美しく、毎日異なるそうだ。
「自然も食べ物も豊富、おだやかになれる。岩城島はすごい」、そう言って脇さんは、またさわやかに笑った。

「出口」を担う、いわぎ物産センター

いくら質の良いレモンが収穫されたとしても、もし必要としているお客様のもとに届けられなければ、レモンによる島おこしを実現することはできない。
岩城島でその「出口」の役割を担うのが「株式会社いわぎ物産センター」だ。
いわぎ物産センターでは、レモンの果実の販売、100%果汁やマーマレード、シロップ、専任パティシエが焼き上げるレモンケーキなど、数々の加工品の開発/製造/販売を行っている。
現在、そのセンター長を務めるのは大本孝則さん(49)だ。
中学校時代はテニス部キャプテンで「部活の時間は筋力トレーニングだと、毎日磯に行って潜ったりしよった」と笑って話す。そのゆたかな経験があるからだろう、観光で岩城島を訪れた子どもたちには、磯で遊ぶのがおすすめだと教えてくれた。高校進学時に島外へ。大学生、会社員を経て、26才で岩城島へUターンした。
いわぎ物産センターのお客様はほとんどがリピーターだそうだ。
「イベントなどで一度買った方が贈答用にしてくださる、そして贈答用で送られた方がまた自分で買ってくださる」、と大本さん。
よいものだからまた買うし、よいものだから贈り物にできる。岩城島のレモンの輪は今も昔も、お客様の手から手へとつながり広がる。

 

ノーワックス・防腐剤不使用

大本さんの案内で、愛媛県内はもちろん、関東など各地で給食に使われるレモン果汁の瓶詰め作業など、工場内の様子を見学させていただいた。
レモン普及が進められた当初から、ノーワックス・防腐剤不使用を徹底している岩城島のレモン。皮ごと安心して使えるのが特徴で、いわぎ物産センターでも果肉や果汁はもちろん、りんごのようにくるくると機械で薄くむかれた皮は、自社製ママレードに使用されたり、各地の製菓会社の菓子の原材料として出荷されたりと大活躍している。
ちなみに岩城島の子供たちが給食で食べる「レモンポーク」も、いわぎ物産センターから提供されるレモンの搾りかすを飼料に混ぜて飼育されているそうだ。

 
互いに寄り添い働く

「ここではレモンの出荷作業をしています」
出荷スペースでは、女性たちがグループに分かれ作業を進めていた。古川さんの作業所のように、ここにも、レモンの良い香りが漂っている。
ひとつのグループは販売店用の袋詰め。電解水を使用して洗浄・殺菌したのち、手作業で同じくらいの直径のレモンを二個ひと組みにして並べ、順番に封入する。
もうひとつのグループは出荷されたレモンの選果。キズや汚れ、大きさを目で見てチェックする(いわぎ物産センターでは量ではなく品質でレモンを評価し卸値を決めることで、レモンの品質向上をはかってきた)。どちらもきめ細やかさと作業への持続力が要求される仕事だ。
従業員のほとんどが岩城島に暮らす主婦だと言ういわぎ物産センター。そう言えば最初にお話をうかがっていた事務所では赤ちゃんの声が聞こえた。
「働いてもらえたら助かりますし、赤ちゃんを見ると他の従業員も和みますから」、大本さんは言った。
ここでは一度働き始めたら、出産、子育ての時期を通し、長い年月働き続ける人ばかりだそうだ。60才の定年の後も再雇用を希望する人が多い。
家庭生活のリズムに合わせて互いに勤務時間を調整し合うことも。「ありがたいです」と作業中の方が教えてくださった。

港のレモンスカッシュ、マスターの笑顔

「もう還暦ですわ。再雇用OKだって、今ちょうど大本さんから電話で教えてもらったところ」
ニコニコ笑いながら教えてくれたのが、いわぎ物産センターが営む、岩城港「リモーネプラザ」内にある喫茶店「レモン・ハート」のマスター、前田正剛さん(60)。
前田さんの笑顔があまりにも素敵でいつまでもカウンターでのんびりしていたくなる。お願いをして、レモンシロップを炭酸で割ったレモンスカッシュを作っていただいた。甘酸っぱさの加減がなんともなつかしい味わい。さらにもっと、のんびりしていたくなる。
レモン・ハートではこの他、レモンポーク丼やレモンポークの生姜焼き、レモンポークカツなど食事を楽しむことも出来る。島の旅の途中のひとやすみに、おすすめしたい場所だ。

 

レモンのかおりをおみやげに

そしてその喫茶店に隣り合うのが直売所コーナー。地元農家の方が育てたレモンはもちろん、いわぎ物産センターで作られたレモンジャムやレモンカード、レモンシロップにレモンのお酒、レモンケーキ、レモンポークの冷凍パックなど、幾つも並ぶレモンのおみやげに思わずワクワクしてしまう。ガラスのショーケースに並べられたレモンブッセは、通販では手に入らない、岩城島港内限定のスイーツだ。ふわっと軽い口当たりのブッセ生地の間には、キラキラ光るレモンピールがミックスされたクリームがサンドされている。
その中から大本さんがすすめてくださった、岩城島産レモンの、特に露地栽培のピールから抽出した精油「いわぎレモンオイル」を選んだ。その香りにはリラクゼーション効果があると言う。手の中に収まるかわいらしいサイズが旅から戻る道中のともにもちょうど良い。

岩城島から船に乗り、家へ帰った。
夜になって精油の封を開け、一しずく、二しずくと器に落としろうそくを灯した。香りがほのかに漂い始め、岩城島で吸い込んだレモンの匂いや、レモンが実る風景、そして、出会った人たちのことを思い出させてくれた。
旅は終わったけれど、レモンの思い出で、心は今も穏やかだ。

  • 岩城島へのアクセス
  • いわぎ物産センター
    TEL. 0897-75-3288 Facebookページ
    営業時間 8:00~17:00
    定休日  土日、祝祭日
  • リモーネプラザ直売所(上島町岩城支所前、岩城港務所内)
    TEL. 0897-75-3277
    営業時間 8:00~17:30/日曜日8:00~17:00
    定休日  年末年始、地元祭礼日
  • レモン・ハート(上島町岩城支所前、岩城港務所内)
    TEL. 0897-75-3277
    営業時間 9:00~17:00
    定休日  日曜日
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