瀬戸内かみじまトリップ
瀬戸内かみじまアートプロジェクト2019 防波堤ペインティング

作品紹介
2019年7月30日〜9月27日、全国の若手アーティストヘの公募で実施した、瀬戸内かみじまアートプロジェクト〜防波堤ペインティングコンペティションにおいて受賞された3作品が、11月中旬〜12月上旬の現地滞在制作を経て見事に完成しましたので、ご紹介いたします。

作者からのコメントや制作風景写真のほか、審査員の方たちからの講評もありますので、ご覧になってぜひ現地を訪れてみてください。 SNSなどをご利用の方は「#防波堤アート」で素敵な写真を撮ってシェアしてみてください。

 

弓削島 久司浦地区 「天の花」

弓削島 久司浦地区 「天の花」

日月美輪さん 画家(京都市)
この度は上島町とご縁をいただき、弓削島でとても素晴らしい時間を過ごすことが出来ました!

私は以前世界一周を経験したことがあり、その旅行期間中様々な国や街へ立ち寄りました。
そして街中のお店の壁や階段の一段一段、地面や民家といったなんでもない場所に、ラクガキではないパブリックアートがそれはもう沢山あることにとても感動したのです。
「絵を描くこと/見ること」が人の生活にこんなに身近になれるんだと嬉しくなって、それ以来ずっと公共の場所に絵を描いてみたいと思っていました。
だからこの公募展を見つけたときは運命だと感じましたし、自分の心にあるものをこの島で現実にできたらいいな、と祈るような気持ちで応募しました。
後に受賞の連絡をいただき、それが実現できると知った時は本当に嬉しかったです。

そしていざ制作のため弓削島に来てみると、ものすごく自然が豊かでご飯も美味しくて、そして何より人々が温かくてとても素晴らしいところだとすぐに感じました。
防波堤での制作は、私にとって初めての屋外制作で、天気や風にも左右されますし正直なかなか過酷な時もありました。でも役場の皆さんや毎日覗きに来てくださる島の方々から沢山の元気を分けてもらって、また沢山の方に制作のお手伝いもしていただいて、お陰様で無事最後まで描きあげることが出来ました。

私の作品 《そらの花》 は虹をテーマにした作品です。
日々の生活の中で落ち込んだりしている時でも、たまに空に架かった虹を見つけると、その瞬間だけはまるで時間が止まったように私の心は晴れやかになって、もう一度頑張る元気をもらえる気がするのです。
大層なテーマですが、そんな奇跡のような一瞬をこの作品を見た人々にも感じてもらえたら、という思いで描きました。
でも仕上がって帰る頃には「私がわざわざ虹を描かなくたって、もうこの場所そのものが虹のようじゃないか」と思うくらい私の心はポカポカになっていました。だから、私の絵一つの力なんてとても小さいものですが、それでもこの絵を見ることもひとつの楽しみにこの島へ立ち寄ってくれる人が増えたら嬉しいです。
私にとっては竜宮城に行っていたような日々でした。ここをこれから訪れる方も、きっとそんな素晴らしい時間を得られるだろうと思います。

関わってくださった全ての皆様に、心より感謝申し上げます。
ありがとうございました。
作品講評
森本千絵
太陽を包み込むような大きな海の花。この場所にこれほどまでに溶け込むとは想像を超えた仕上がりです。
海がまるで繋がっていて、防波堤の存在を描き消しています。空と海に現れるあらゆる色の変化がすでにこの花には着色されている。夕陽が輝く空のときは、まるで陽が照らしたかのように赤く染まる。
ここに描かれたからこそ、空模様によって見え方をどんどん変えていく本当に生きた花となることでしょう。
静かに祈り願う気持ちで訪れたい。そんな素晴らしい光景が生まれました。
桜田知文
日月美輪さんの「天の花」は、神社を抜けて右カーブを曲がっていくと、大空の下に虹色の大きな花が突然出現します。その感動はなんとも言えません。
なんとも伸びやかで雄大な。短期間の滞在でしたが、ダイナミックかつ繊細な作品に仕上がったと思います。初めての屋外制作と伺いました。完成の三日前の制作中に訪れましたが、原画とは異なり、モザイクのように三角形で構成されていました。日月さん曰く、「ようやく下地ができました。ここからは速いです。」と。 ???と思いながら、今年に入って完成作品を見に行ってきましたが、なんとも雄大でダイナミックな作品に仕上がっていました。原画以上の出来でした。知人を連れて、この絵を観に何度も弓削島を訪れたい気持ちになりました。日月さん、この場所にこの絵を描いていただき、本当にありがとうございました。
八木誠一
どこかでみたことのあるような、でもどこにもない花の美しさ。幾重にも開き続ける花びらから、無限に広がる大自然の雄大さと優しさ、繊細さを感じさせます。島の未来も雄々しく広がっていくようです。
上岡千恵
大森神社から歩いて向かうと、カーブの影から少しずつ、日の出のように「天の花」が姿を現します。横に長く続く防波堤に、大輪の花がおおらかに広がっています。この場所は背景の島々が遠く水墨画のような濃淡があります。作品の日本画のような繊細な色の変化が、背景とマッチしてとても美しいです。よくみると太陽や花びらの中にも様々な紋様が隠れていて、近付いてじっくり観賞したくなります。海の景色、神社、作品が互いに上手く影響し合い、神秘的な魅力のあるスポットになっています。
制作風景
制作風景写真

 

生名島 波間田地区 「みんなのクジラ」

生名島 波間田地区 「みんなのクジラ」

武田充生さん 彫刻家(東京都文京区)
「島・空・海・そして島の⼈々」

「みんなのクジラ」はまさにここでしかできない作品となりました。
画⾯の背景の⽔⾊は海と空の⾊を意識し、防波堤の後ろに広がる⽔平線はそのまま絵の中へと繋がり、⽔の中に潜っているようなイメージです。画⾯に泳ぐのはみんなの思いの詰まったスナメリクジラ、そして中⼼には上島町の島々を表現しています。

この絵は島の皆さんの協⼒の元に⽣まれました。
⾃分の何倍もの⼤きさの防波堤キャンバスに思い切って絵の具をぶちまける⼦供達、筆以外のモノ使って⾊々な⽂様を作り出す親⼦、表現にこだわり⼀つの形を追求する少⼥、そして遠慮がちに描く⼤⼈たち。その瞬間は、1⼈1⼈がアーティストになっていました。
そんな彼らの表現⼒は⾃分の想像をはるかに超えており、時間によって変わる様々な表現を、参加者の⼀⼈としてとても楽しく拝⾒させていただきました。

みんなの楽描きをそのまま使⽤し、表現したこの絵は、まさに「みんなのクジラ」になったのではないでしょうか。この壁画の主役は間違いなく参加してくださったみなさんです。絵を描いた1⼈1⼈が⾃分の描いた防波堤アートとして伝えてくれればと願います。

私も⼼地よい⽇差しの中で壁⾯を作っている最中、海と空との⼀体感を感じ、まさに滞在制作の醍醐味を味わいました。
そして差し⼊れでもらった、たくさんのみかんと⼈々の笑顔。この町の宝はまさに「島・空・海・そして島の⼈々」なのだと感じました。
またこの島に戻ってきたいなと今⽇も思います。 作品講評
森本千絵
キャンプ場そばだからこそ、みんなで描くワークショップによって生まれたクジラ。
それぞれが命をつけていき、泳ぎ出しました。
もはや、みんなの地図のようです。
このさき、右も左にもどんどんみんなが参加して伸びやかに育ててほしい、そんなきっかけが生まれました。
桜田知文
武田充生さんの「みんなのクジラ」はキャンプ場に描かれました。島の方々と共に作り上げていく醍醐味。制作途中を観にいくことは出来ませんでしたが、たくさんの写真から、地域の方々と、とても楽しく製作できたことが伺えます。
何度も、こういったイベントをされていて、ノウハウをよくわかっていらっしゃる方だと思います。「楽描きワークショップ」と題して、地域の方々と作り上げていく共同制作。そして出来た作品は、防波堤という場所をうまく活かし、クジラ背中に乗ることもできます。描く楽しみと共に、出来てからの楽しみも共有できる。とても素晴らしい作品です。
また、完成作品を観に行った時にちょうど太陽の光が画面に反射して、作品が光り輝いて見えたのも、印象的でした。
八木誠一
どこまでもつながっている大海から大きなクジラがやってきました。スケールの大きな鮮やかな色とりどりの体には制作に携わった島の方々のいろんな思いが詰まっています。絵を描く楽しさがストレートに伝わってきます。
上岡千恵
この作品の魅力は、完成品を見てその過程を想像させるところにあると思います。制作過程には完成品を見るだけでは想像できない驚きがあり、どこかで鑑賞者もそれを知る楽しさを体験できると良いと思います。また、上島町の魅力は、美しい自然や美味しい食べ物など色々ありますが、島に生活する人々も外すことのできない要素です。この作品は、鑑賞者に作品の描かれた島の環境や生活する人々の存在を感じさせるとともに、島の人々を参加者としてアートと結びつけるという双方の役割を果たしてくれると思います。
制作風景
制作風景写真

 

岩城島 西部地区 「海のおとを聴く」

岩城島 西部地区 「海のおとを聴く」

菅真佑紀さん イラストレーター(東京都杉並区)
最初にこの場所の写真を見たとき、このままで十分綺麗ではないか、何も描く必要はないのではないか、と感じました。けれど、他の誰かに描かれるくらいなら私が描きに行きたい!と思い、応募に至りました。なので、採用の連絡を受けたときは嬉しさもありましたが、ここに見合う絵を私に描けるのだろうか…、という不安が大きかったのが実のところです。

そんな中でも、最後までやり切ることができたのは、他でもなく上島町のみなさんのおかげです。現地での制作中は、プロジェクトを担当している方や、島に住んでいる方とお話しする機会がありました。プロジェクトの経緯や島について知れば知るほど、みなさんが上島を大切に思う気持ちが伝わってきて、期待に応えなきゃと動かされました。至らぬ点もあったと思いますが、今の私の全力は出し切ったつもりです。

この絵一つで何かが大きく変わるわけではないけれど、ほんの少しでも上島町に良い影響を与えられれば嬉しいです。上島町はこれからどんどん面白い場所になって、たくさんの人が訪れるようになるはずです。そんな上島町に負けないよう、私も頑張ります。また遊びに行くので、そのときはよろしくお願いします!
作品講評
森本千絵
海に耳を澄ますあらゆる生き物。
やはり実際にこの場に描かれると、なんとチャーミングなことでしょうか。どんな音が聴こえてくるのでしょうか?私たちもここに耳をつけて聞いてみたい。そんなワクワクで繋がれたお友達が出来たかのようです。
そういった人間の想像力の可能性を含めてみると、またいつもと違った世界のように感じます。
人と自然が寄り添い合うそんな接点となれたらよいと思います。
桜田知文
菅真佑紀さんの「海のおとを聴く」も、製作途中に伺いました。私が伺った日は快晴でしたが、雨にたたられ苦労されたようです。目の前に、生口島、大三島、多々羅大橋の見えるとても素敵な海水浴場にあります。応募された原画からブラッシュアップされて、素敵なキャラクターになっていました。最終的にバックをブルーに仕上げて、とても彩りが良くなりました。
作品と一緒にポーズと取る。しかも、それをSNSにアップをする。現在社会ををしっかり捉えておられると思います。夏になって海水浴に来た子供達、が作品と一体になってポーズをとっているところを見るのが待ち遠しいです。
また、完成作品を観に行った時にちょうど太陽の光が画面に反射して、作品が光り輝いて見えたのも、印象的でした。
八木誠一
人も生き物も太陽さえも、みな海に身をゆだねてそのおとを聞いています。自分の鼓動とシンクロする大自然の響きに安らぎを感じているようです。この場所に訪れた人はぜひ同じポーズで海のおとを聴いてほしいです。
上岡千恵
海水浴場という場所にふさわしい、鮮やかではっきりした色合いの、元気が出るような作品です。防波堤の表面の凹凸がクレヨンのような温かい風合いを生み、優しいイラストを際立たせています。作品の前に立ち、キャラクターたちに倣って耳を澄ませると、入り組んだ砂浜が独自のリズムで波音を立てていることに気付かされます。ふと自然の音に耳を傾けるという体験は、普段見過ごしがちな自然の魅力に触れ、上島町という場所をより楽しむ導入になるのではないかと思います。SNSでの特産品PRの役割にも期待が持てます。
制作風景
制作風景写真

最終選考会での審査員の講評などは、こちらからご覧ください。

最終審査員選考 結果発表

 


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