瀬戸内かみじまトリップ
瀬戸内かみじまアートプロジェクト2019 防波堤ペインティングコンペティション

審査員講評
goen°主催 森本千絵 さま
一次書類審査で東京の会社でこの写真や絵の資料を見たときは、最初は全然違うものに得点を上げていて好評価でしたが、上島町で2日間過ごして、じっくりと景色を見て一周回らせていただいているうちにどんどん意見が変わっていきました。そしてやはり防波堤はその壁だけで成立するものではなく、人と海と景色・景観の3つを繋ぐ間にあるもので、海から見た場合、逆に歩道から見た場合、その両者にとってどういうストーリーがあればいいかと思った時に、今回の3か所の防波堤がまるで立地条件が違って、人の通い方であるとか、そこに滞在する時間も違う、そう思った時にこれは時間のデザインでもあると考えました。
全体の中でも、この3つはそれぞれの場所でダントツであると共に、それぞれにふさわしい場所に選ばれて、すごく有意義な素晴らしい審査会になったと思います。
尾道市立大学 美術学科 教授 桜田知文 さま
今回応募のあった47作品を見せていただき、それぞれの方のHPも作品と比較しつつ拝見し、この景観とか場所等関係なしに自分のスタイルに持ち込もうとしている方の作品は外させていただきました。
三浦工業ミウラート・ヴィレッジ  学芸員 上岡千恵 さま
今回の応募作品を見たときに、いい作品がたくさんあり、普通に紙で見て判断する時と、壁でもなく、家でもなく、防波堤に描くということを考えた時に、どの作品を選ぼうかとすごく悩みました。
今回どれも完成が楽しみな作品が選ばれて、私もうれしく思います。 愛媛県美術館 学芸課長 八木誠一 さま
8月に事前に旅行に来て島の雰囲気を少しでも感じられればいいなと思い久司浦の果てまで港から歩いた。その経験があり、2か月ぶりに今回またこちらに来て、いいお天気の中、島の空気、波風を感じられて良かったと思っています。
受賞した3名(もしくはその仲間の方達)の若いアーティスト達が、同じように感じていただけたらいいなと今は思う。3か所がそれぞれ違い、3点とも絵の雰囲気もテーマも表現方法も違うので、それぞれに上手く特徴を活かして、バランス良く落ち着いたと思います。3つセットで観に行こうと観光客の方や島外の方が考えられるだろうし、島の方達にもウエルカムな感じで受け入れてもらえるのではと思いますし、ぜひ、アーティストの方たちには頑張ってもらえたらと思います。

受賞作品


弓削島 久司浦地区

弓削島 久司浦地区

「天の花」日月美輪

天の花 サムネイル

私が初めてこの上島の風景を目にした時真っ先に思ったのは 「なんてすっきりひらけた美しい水平線だろう」という事でした。瀬戸内の景観の美しさは以前より知っていましたが、この度の防波堤ペインティングプロジェクトを知り、是非ともここに絵を描きたいと強く思いました。
応募作品「天の花」は、瀬戸内海のひらけた空と海に現れる虹をイメージした作品です。普段は青い空ですが、そこにごく稀に現れる奇跡のような瞬間、そんな虹を自身のテーマとし、一見すると太陽を包む彩雲の様に、よく見ると空に咲く大きな花のように美しい景色を描きたいと考えています。
森本千絵
いざこの場所に来た時にこの作品「天の花(そらのはな)」が美しく感じてきた。不思議なもので東京にいた時には感じなかったこと。それを美しいと思う心が欠けていたと思う。
行ってみるとあそこはやはり神々しい所というか、人もあまり歩いて通らない所であり、ああいう花が目的とあって、最後であり始まりでもある場所に咲いていたら凄く嬉しくなり、中には涙するものも出てくるのではないかと思って、素敵な時間を感じました。
桜田知文
日月さんは、普段割と花を中心に描かれている方だが、あの難しいフォーマット(1×10)にすごく上手くマッチして構図を決められたと思った。そして、作品を持って実際に現地に行きどんな風に見えるのかといった時に、後ろの景色との対比がすごくよく、あの作品はあそこに置くべきだろうと考えました。キャンプ場や海水浴場にあっても映えないだろうと思いました。
上岡千恵
この作品は最初から、この場所にこの作品があることがとても素敵なことだと思い選びました。ずっと続く1mの防波堤という所に横の広がりを持って存在しており、充実感はあるけれど窮屈ではない景観にマッチした作品だと思った。

生名島 波間田地区

生名島 波間田地区

「みんなのクジラ」武田充生

みんなのクジラ サムネイル

この作品の描写自体はみんなのワークショップによって描かれます。その地域の住民の表現そのままが壁画として、その地域に根付きます。
<事前準備>
描写予定範囲に基礎塗装 下地 → + 2回塗装
<作成開始>
前面に養生テープを貼る → 描写及び切り取り → 剥がした上に再び基礎色塗装 → 真っさらなキャンバスとして整える → 2日間ワークショップ
<1日目> 楽描き ワークショップ(テーマ〜クジラ こども達の楽描きが最終的にクジラの形に)
<2日目> みんなで除幕式(テープ剥がし) → 完成
このワークショップのキモは『自由に描く』という行為にあります。普段では描けない大きさの盤面に向かって思い切り絵を描く。瞬間、瞬間に変わっていく画面。この行為は全ての子供達や大人達をアーティストにすることができます。そして少し仕掛けで子供達の行為は芸術と変わっていく。その瞬間をみんなに体感してもらいたいと思っています。
森本千絵
防波堤のワークショップで、以前私もみんなでつくったいい経験があるが、海の色と空の色がだんだん時間と共に変わっていく中で描く作業をするというのはとても素晴らしいことで、そう考えた時に1点でもワークショップ形式でみんなで作り上げていく作品がこの中から選ばれればいいなとはじめから思っていた。その中でキャンプ場であるこの場所は絵を描くにも適していて、ゆっくりキャンプをしながらそこを見たりまた手を足していく人がいてもいい、永遠に終わらない形、そういう意味で言えば、クジラではあるがクジラのような、みんなの魚・生き物と言う意味合いで育てていけたらいいなと考えました。あの作品があの場所にベストだと思っています。
桜田知文
何点かクジラをキーワードにした作品があ李ましたが、瀬戸内海にクジラはどうなんだろう、マッコウクジラやシロナガスクジラの絵が描いてあるものがあり、そのへんに疑問があったため書類審査の時には辛い点をつけていました。中には墨で大きくクジラを描こうとしていた方がいたが、防波堤の上に寝転がった時にクジラの上に寝転がっているように見えるのではないかというコンセプトで描かれていたため、それはそれで面白いかと。防波堤に描くということで上手くいくアイデアかと思っています。
上岡千恵
このようなアートによって島を盛り上げていこうというプロジェクトでは、島の方々の熱量というか、どれだけ愛されるかがとても重要だと思うので、島の皆さんも参加して当事者として関わっていくことによって、お客様がいらっしゃった時に誇りを持って「その作品ならあちらにあるよ」と案内してもらえるような、島の雰囲気から作っていけるような作品だと思った。最初に絵だけを見た時は、他の作品の中に埋もれてしまうような感じがして印象には残らなかったが、制作過程の中で、子ども達が制作してマスキングを剥いでいく前の段階であったり、剥いでいく過程の中で生まれてくる表情があるのではと思うので、途中段階を見せていくことで、色々楽しく活かせていけるのではと思いました。

岩城島 西部地区

岩城島 西部地区

「海のおとを聴く」菅 真佑紀

海のおとを聴く サムネイル

上島町に住む精霊や動物たちが、防波堤に耳を当て、海の音を聞いている様子を描きました。左から、少年、花、太陽、タコ、犬、少女、靴下(海水浴の忘れ物)、レモンポーク、波、メッセージボトル、貝殻をイメージしています。実際に描く場所に合わせて、モチーフを調整しても良いかと思います。
数カ所スペースを空けているのは、ここに訪れた人が一緒になって海の音を聴くためです。壁画と同じポーズで一緒に音を聴く様子を撮影し、SNSにアップしてもらえるようにしました。
壁画は、その場所に長く残るものなので、観光に来た方にはもちろん、住民の皆様にも気に入ってもらえるようなものにしたいと思っています。そのため、このような明るく可愛らしいイメージでの制作を予定しております。
森本千絵
防波堤のサイズを活かしたアイデア、とにかく面白いアイデアで、一緒に参加したくなる、しゃがんでお祈りしているようでもあり、耳を澄ましているようでもある。夏になると子供たちがあそこに並んで親御さんが写真を撮ったりする光景が目に浮かぶと、他の海水浴場と違って新しい形で発展していくのではないかという楽しさが広がる、素晴らしい。同じような子供が並んでいる絵にひとつアイデアが加わり素晴らしい作品だと思いました。
桜田知文
一次書類審査時も私は満点を付けていたが、SNS映えのする今時の展開の仕方がよくわかってらっしゃっていて、そのコンセプトは非常に面白いと思った。
ただ自分の好きな絵・得意な絵を描いているのではなく、そこにあるからこそ活きるアイデアが今回選ばれたのかと思いました。
上岡千恵
写真を撮るということを意識した作品で、読んだ時にすごくアイデアに驚かされた作品でした。写真を撮りSNSで広げていくことを考えた時に、特産品であるとか何が有名であるか、少しでも要素として入っているものが1作品でもあればいいなと最初に考えていたが、タコとかそういうものが普通に防波堤に描いてあっても、防波堤によくあるありがちなモチーフになりがちだが、この作品は、ここにタコがいる、ああここに特産品が描かれているなあということをすごく感じさせる、考えさせる絵だと思うので、特産品のアピールという役割が果たせていると思った。海水浴場に一つ楽しめるようなものがあると、海だけでなく、この作品(の前)で遊ぶこともできる、いい作品だと思いました。